**RED**


あ、真っ赤だ。


最後に私が言った。
あなたはただ黙って、強く、けれどとても優しく私を抱き締めた。
あなたが叫んだ涙は、どこにも届く事なく宙に消えて行った。


そして流れる。私の2年分の愛情。




父が、庭の木々を家の中に入れ始めた。
萎みかけた花が急に生き返る。
母は、乾かない洗濯物を意味も無く叩き、また洗濯機を回す。耳障りな渦にあたしのシャツが巻き込まれて行く。




「もしもし?」
私は、繋がる事のない電話を手にする。そして、届かない言葉を、君に向けて繋ぐ。
「今日、学校でね。佐久間さんに凄いおだてられたんだ。なんでも出来るんだね、だって。何でも出来るなら、あたし、今ここにいないのにって、おかしくて。ねえ、そっちはもう冷たい風が吹く?」
最後に君にあった日。君はこの街の寒さを忘れていた。
小さく丸まる背中は情けなくて、とても愛おしかった。引っ張ったコートの裾。
君は気付かずに振り向いて払った。私の右手はひどく痛んだ。
去年、君が守ってくれていた私の右手。今は遠い君の左手。
私は空を指差して、涙をごまかした。



ほら、オリオン座。



あれは、私と君が目指す場所。
いつまでも覚えない君は、カシオペアを眺め、「ホントだ」と笑った。
私のタメ息に君は気付かない。




私が君を愛する事で、君は私を傷つけた。
君の周りには嘘が多過ぎる。
だって、あなたはこの街を忘れているのだから。
白い息を浮かべ、手を繋いだ日々をなかった事にしている。
私は自分に出来る精一杯の顔で君を睨んだ。




大嫌い。




君が私を愛する事で、私は涙になる。
それは、嬉しい事や悲しい事、苦しい事、幸せな事、全てに通じていた。





君が、忙しい日々に身を置く事で、私はひとりぼっちになった。
私は必要のないモノと化した。適当な、その場しのぎの愛だけ与え合えばいいモノに。





切り刻んだ私の可愛そうな右腕に、滲んだ涙を、君は見つめて笑ったんだ。
ひとりぼっちの私の右手。




あぁ。真っ赤。これはあたしの涙。
君は、失って初めて、私の笑顔と傷を知った。

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